第62章 新・忍びのむに
「先は長いな…」
「ん?」
「いや…なんでもねえよ…」
お国の墓は、鉄に頼んできた。
気兼ねをするような縁者など、無門にはとうにない。
だが、いままで自由気ままに暮らしてきた無門にとって、これからの仕事は気が重いのだ。
「…気晴らしに、女でも買いにゆくか?無門殿」
「ばかやろ。そんなのはいいよ」
お国を亡くしてから、無門はそんな気も起こらなかった。
それに夫婦だったとはいえ、お国と契ったのは出会いの時の一回こっきり。
以前の自分を考えると、なんとも枯れ果てたものだと無門はおかしくなってきた。
「…本当に良いのか?近くの宿場では安く女が買えるぞ?」
「いいって言ってんだろ。しつこいなぁ…」
潤之介は苦笑いをして前を向いた。
「ならば、今日は草津で宿を取ろう」
「ああ!?なんで草津?」
安土までは忍術の訓練を受けている二人にとって、すぐそこの距離だ。
琵琶湖沿いに歩いていけばいいだけなのだから。
「だって、もう夕方だし…湯も浴びたいし布団で寝たいし…」
そうだった。
潤之介は、雑賀では無門よりも身分が高いのだ。
伊賀で藁の布団で寝ていた無門とは違うのだ。
「…わあったよ…」
不承不承、無門は頷いた。
潤之介はまたにっこりと笑った。