第62章 新・忍びのむに
「まずは安土かな…」
伊賀ならば、親方の言うことに従っていればよかった。
仕事で商売しにいった大名家でも、ひたすら言われることをやればよかった。
だから自分の頭で考えて動くなどと、無門には初めてのことでなにから手を付けていいやらわからない。
「無門殿」
とぼとぼと歩く修験者姿の背中に声を掛けられた。
振り向くとそこには僧形の潤之介が居た。
「参ろうか」
なんと潤之介も一緒に行くというのだ。
「…助かった…」
「ん?」
「なんでもね。で?どこ行くんだ?」
「それは無門殿が考えてくれないと…」
「あへ?」
結局、無門が考えないといけなかった。
「…まずは安土に行ってみようと思うんだがな…どうかな?」
「良いのではないか?あの天守は何度見ても素晴らしい」
まるで物見遊山にでも行くような口ぶりだ。
「じゃ、安土に行くか…」
潤之介は実によく笑った。
だから道中、無門は退屈することがなかった。
よく喋るわけではないが、無門の知らない雑賀のことを教えてくれたり、武将のことを教えてくれたり。
「潤之介殿は詳しいのだな」
無門は伊賀ではただの下人だったので、そこまで国情に通じているわけではない。
潤之介の話で大体、織田の内部については理解ができた。