第62章 新・忍びのむに
結局、無門はこの仕事を引き受けることになった。
織田の武将は、全国に散らばっている。
主だった武将だけでも、柴田を筆頭に丹羽・明智・羽柴などがいて、調査には時間が掛かりそうだった。
大体、諜報など無門に向いている仕事ではない。
だが家康は脚をよこせと言った。
とにかく情報が欲しいということだろう。
ならば見たままを報告すればいいと潤之介は言った。
それならば無門でもできるだろう。
無門は鉄を三条の橋の下の掘っ立て小屋から追い出した。
なんでだとごねる鉄を、刀鍛冶に預け修行させることにしたのだ。
そこでは鉄のような追い回しが欲しかったようで、大喜びで鉄を引き取った。
「まあ、おまえの腕は確かだからよ…修行が終わったら、独り立ちさせてやる」
そういうと、不承不承ながら鉄は承諾した。
「死んじゃならねえぞ、無門」
最後にぽろっと鉄は溢した。
「……ああ。俺を誰だと思ってるんだ…」
お国を思い出し最後までちゃんと言い切れなくて、すぐに無門は顔を背けた。
お国だけでなく、鉄のひたむきさもまた無門を人に戻した。
だから、無門は鉄を伊賀から救い出したのだ。
鉄も無門の人であるための拠り所であるのだ。
「無門?」
「いいから行け」
鉄は名残惜しそうに振り返りながら、刀鍛冶の家に入っていった。
「……ちくしょう……」
ごしっと顔をこすって無門は踵を返した。