第62章 新・忍びのむに
「なんで?」
「ああ…なんでも強烈なお方だったらしい…」
築山殿という、家康の正室。
信長に滅ぼされた今川義元の姪である。
その頃家康は今川の人質となっており、築山殿にしてみたら格下である岡崎の小領主の息子と結婚するなどとは、夢にも思っていなかったのだろう。
長年、家康とは上手く行っていなかったのだとか。
別居して息子夫婦と住んでいたが、そこで嫁姑問題を起こし、息子の嫁(信長の娘)と上手くやれず、結局はその頃織田・徳川最大の敵であった武田と内通を疑われ死ぬことになる。
それが元で息子を葬る原因にもなったのだ。
「…なあんで、大事にしてやんねーんだ」
「え?」
「大事にしてやんねーからそんなことになんだろうが」
「そらま、そうだろうけど…」
「三河殿は、惚れてなかったのか?」
「そんなわけないだろ」
「……」
無門はお国を思い出した。
自分に惚れていたのかはわからない。
だが、無門は心底惚れていた。
そして、自分を人間に戻してくれた。
お国が居なければ、自分は人でないままだった。
死んでしまった今も、お国は無門の心に住んでいる。
まるで心のふるさとのようだと思う。
妻とはそういうものなのではないか?
「…気に入らねえな…」
「無門殿。そのような事、口にしてはならぬ」
勝手だろう。