第62章 新・忍びのむに
「どうする?」
岡崎の城下にある小さな寺の一室で、潤之介と布団を並べて寝ている。
「どうするもこうするも…受けなきゃ鉄が殺されんだろ…」
「まあ、そうだがな…」
無門の弱みもしっかりと掴んだ上で仕事を依頼してきている。
受けずにいられるわけがない。
「しっかし、聞いてたのと違うな…三河殿は…」
この乱世であるから、信長が死ぬのはあり得るかもしれない。
だが、盤石に足元を固めようとしている今、次の織田の主は誰かと探れとは…
「俺も初めて会ったとき、驚いたよ」
育ちの良さそうな潤之介は、少し笑うと腕を天井に向けて伸ばした。
「家康様は…息子を失のうておる」
「え?」
「信長に切腹に追い込まれたのだ」
「…へえ…」
「俺が雇われたのは、ちょうどその頃だ」
今よりも痩せて目玉をギョロギョロさせた家康は、潤之介にこう言ったという。
”あのうつけ、滅ぼす”
家康にしては大胆な発言である。
その頃は、まだ三河・遠江を領しているだけの大名だ。
信長に敵うはずなどないのに。
それほど、息子を亡くした家康の嘆きは深かったのだろう。
しかし同時に妻も亡くしているのだが、これにはなんとも思っていないらしい。