第62章 新・忍びのむに
「そりゃまたなんで…」
潤之介が話に割って入る。
本多が嫌な顔をしたが、お構いなしだ。
「だから言ったろ?色恋で失敗したって…」
「それと何が関係あるんだ?」
「この腕のせいでわが妻を亡くした。だからもうこの腕は使わん」
そういうと、家康の表情が少し動いた。
「ほう…伊賀者にしては珍しいことをいう…」
「俺はもう伊賀は捨てた。だからこの腕も捨てたんだ」
ちらりと家康は本多を見た。
本多は頷くと、無門の前に小さな木箱を差し出した。
「ならば脚をよこせ」
「はぁ?」
木箱を本多が開けると、そこにはまばゆい黄金が詰め込まれていた。
「これでお主の脚を買う。足らぬか?」
「は…?」
本多が部屋の隅に下がると、家康は語り始めた。
「信長は、死ぬ」
無門は仰天した。
今、天下を手中に収めようとしている男…しかも、家康が長年同盟者として付き従ってきた男の死をあっさりと言ってのけたのだ。
「後に残るは、阿呆の息子達だ…次に織田から出るは、誰だと思う?」
そんなこと、無門の知ったことではない。
大体、武家になんか興味はないのだ。
「それをおまえの脚で探れ」
無茶なことをいう。