第62章 新・忍びのむに
「お主は伊賀一の忍者であったというのは本当か」
「まあ…そうだったんじゃねえの?」
「ほう…」
家康はニタリと笑った。
この少し前、伊賀は滅亡している。
だから先日は逆恨みをした文吾に襲われたのだ。
信長に最後のダメ押しをしたのは、何を隠そう無門なのだから逆恨みではないのかもしれないが。
どうも家康はこのあたりの事情は察しているらしい。
鉄を人質にした事といい、出来過ぎている。
(油断ならない男だな…)
家康は独立した大名で信長の家来ではないが、まるで奴隷のように付き従って言うことを聞いている。
腰巾着のような男だと思っていたが、実はそうでもないのだろうか。
京の都にいると、様々な噂が聞こえてきて面白い。
無門はそれを耳に入れては鉄に話して聞かせていた。
家康の噂は、ついこの前話してやったばかりだった。
馬鹿にしていた無門だが、ちょっと考え方を改めないといけないようだ。
「その腕、暫く雇えぬか」
疑問形で聞いてはいるが、既に家康の中では決定事項のようだ。
「俺は…もうこの腕で商売はしない」
しかし、舐められては困る。
今のこの穏やかな生活を手放す気は無門にはないのだ。