第62章 新・忍びのむに
見たこともない術だった。
「なにを…」
「無門っ…」
途端に鉄の動きがピタリと止まった。
「解いて欲しいなら、同道願えないだろうか…」
少し気の毒そうな顔をして、僧形の者は無門を振り返る。
信長の手先ではなさそうである。
しかし油断はできない。
「どこまで行く」
「三河…」
ぴくりと無門の肩が動く。
「そうじゃ。三河殿がお主に会いたいと申す」
三河殿と言えば、家康のことである。
その家康は今、信長と同盟を組み共に戦う立場の大名だ。
一体、無門になんの用があるというのだろう。
「…そいつは関係ない。術を解け」
「だって…術を解いたら、無門殿は逃げてしまうであろう?」
今度は人懐っこそうな笑顔だ。
くるくると変わる表情に、無門は力の抜ける思いがした。
「もー…わかったよ…一緒に行くから…頼むからそいつは逃してやってくれよ…」
「わかった」
あっさりと頷くと、僧形の男は鉄の顔を撫でた。
「わっ…」
途端に鉄は前のめりに倒れ込んだ。
「なっ!?なっ!?なんだ!?」
「おい、鉄」
「んなっ!?」
地面に倒れ込んでいる鉄を、無門は見下ろした。
「おまえ、暫く留守番してろ」
「はあ!?」
「ちっと、商売してくるからよ」
ニタリと無門は笑った。