第62章 新・忍びのむに
「なにやってんだぁ…あいつは…」
僧形の者に腕を引かれているのは、鉄だった。
三条橋下の小屋から連れ出されたのだろう。
僧形の男は編笠をかぶったまま、まっすぐに無門を見上げた。
太い眉に、意思の強そうな瞳だ。
「降りて来ぬか。無門殿」
存外、きれいな言葉を使う。
どうやら、自分のような下人よりは偉い身分の者のようである。
ひらりと枝道に舞い降りると、無門はしゃがんだまま僧を見上げた。
「…なんの用だ」
鉄は不思議そうな顔をして無門を見ている。
「なあ、無門…?知り合いじゃないのか?」
この小僧、騙されているのである。
警戒心が強いのに、なぜころっと騙されたものか…
「いいから、てめえは黙ってろ」
少し怖い顔をするから、鉄は押し黙った。
短くなった着物の袖を掴むようにして身を縮めている。
「商売の話だ」
僧形の者は白い顔をつるりと撫でると、晴れやかに微笑んだ。
(なに笑ってやがる)
命を奪うつもりなどないと言いたいのか。
この場にはそぐわぬ笑顔だった。
「…俺はもう誰のためにも働かん」
「まあ、そう言わず…」
「しつこい」
地を這うような低い声が出た。
無門の身体から、黒い影が揺蕩って見えた。
「…そう怒らずとも良いではないか…」
するりと伸びてきた白い手の先から、なにか粉が吹き出した。
「うわっ…」
それは、鉄の顔面を覆った。