第62章 新・忍びのむに
「うわ…袖、切れてる…」
また鉄に繕わせてやろうと、無門はその袖をひらりと捲り上げながら歩いていた。
一着しか持っていない野良着だから、繕って着るしかない。
伊賀を出てからの無門は、その日生きていくための銭が稼げていればよかった。
お国の菩提を弔いながら、そうやって生きていくのが楽しいのだ。
墓参りを済ませ、三条の橋に戻る途中、背後に鈴(れい)の音が聞こえた。
「ち…」
小さく舌打ちすると、無門は背中を丸めた。
「今日はえらいしつこいじゃねえか…」
背中を搔くふりをしてチラリと後ろを見ると、今度は僧形の者が托鉢をしている。
鈴の音を響かせ、静かに無門に近づいてくる。
(見ねえ顔だな…あんな奴居たか?)
チラリと横を見た無門は、そのまま枝道へと入った。
そのまま奥に進むと、人が居ないのを見計らって商家の屋根へひらりと舞い上がった。
自分を狙っていたのはわかっている。
大方、信長にでも雇われたのだろう。
あんなに自分たち乱破者(らっぱもの・忍者の呼び方の一種)を嫌がっていたのに、実は一番恐れている。
(弱点晒してんじゃねえよ…おっさん…)
ふらり、枝道に影が見えた。
無門は身構えるが、すぐに姿勢を崩した。