第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
松本教授は、あの後すぐに退官することが決まった。
俺はあの日から研究室には顔を出さないで、ずっと実家で過ごしてた。
一回も、姿を見ることはなかった。
だから、どんな理由で辞めたのかは後で知った。
「でもさあ…びっくりだよね…」
「んー?」
「結婚なんてさ…」
「んだねえ…」
「しかも相手、櫻井教授だろ?すげえよな…」
相葉くんがなにやらブツブツ言いながら、グラスの酒を飲み干した。
「俺の読み、当たったね」
「ん?なにが?」
大野さんがビールを追加で注文しながら相葉くんを見る。
「やっぱ、松本教授アッチの人だったな」
「ああ…まあね…」
ちらりと俺の方をみた大野さんは、すぐに目を逸した。
…多分、なんか勘付いてるんだろう。
でも、言いふらすような人じゃないから、ほっとこ。
「まあ、海外行くらしいし?同性婚認められてるとこだろ?もう日本には帰ってこないだろうね」
「だろうねえ…」
大野さんはジョッキを手に取ると、カチリと俺のグラスとあわせた。
「ま、いいんじゃない?本人がしあわせならさ」
時は…流れていく…
日々は…流れに流れて…
どこに辿り着くんだろう