第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「…ニノ…?」
いつの間にか、正門まで歩いてた。
顔をあげると、大野さんが寒そうに肩をすくめながら俺を見てた。
「…あれ…大野さん、どうしたの?」
「いや、スマホ忘れてさ。取りに来た」
「珍しいね…めんどくさがりなのに…」
「いや、どうしても今晩連絡しなきゃいけないところあってさ…つか、どうした?」
「え?なにが?」
「なんか…あった?」
気遣わしげに俺の顔を覗き込むと、ごしごしと袖で俺の顔を拭き始めた。
「なっ…なにすんのよっ…」
「だっておまえ…泣いてるぞ?」
「え…?」
ぎゅっぎゅと俺の顔を拭くと、大野さんは真面目な顔をした。
「話し、聞いてやる」
「いいよ…早くスマホ取って家帰りなよ…」
「いいから。ほら、飲みに行くぞ!」
「いいってば…ほんと…」
「そうだ!相葉ちゃんも呼び出そう」
「ええっ…やめてよ!」
「いいからいいから…」
「ちょっと、大野さぁん…」
ねえ、潤…
今、しあわせ…?
「かー!松本教授がいないと、わかんねえっ…」
相葉さんが髪をかきむしりながらパソコンに向かってる。
「あんた…何年一緒に研究してたのよ…」
「ああん!?おまえ、わかるのかよ!」
「どこよ?」
「だから、ここの実験に当てはめた時のさ…」
「ああ…こんなのこうでしょうが…」
後ろからキーボードに公式を入力してエンターキーをぽんと押してやったら、画面がつるつると流れ出した。
「えっ…」
「あんたねえ…ほんと何やってたのよ…」
「俺だって一生懸命やってたんだよっ…!?」