第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
好きだよ…
愛してるよ…
「教授、外に飯行きません?」
だいぶ遅くなった研究室に、教授とふたりきりだった。
大野さんも相葉くんもとっくに先に帰ってて。
後片付けをしながら、飯に誘ってみた。
「えっ…」
「なに…その顔」
「だって…二宮が外で飯くおうなんて、珍しい事言うから…」
「外食くらいしますよ俺だって…」
「だって、家が大好きだろ?おまえ…」
誰も居ないからって、教授は油断しきったことを言う。
「違うな…家でゲームしてんのが大好きなんだよな?」
「あのねえ…」
「いっつも俺になんか作れって言うくせにさ。珍しいな」
「嫌ならいいですよぉ…」
「最近、家にも入れてくんないし…」
「…浮気なんかしてないよ?」
そう言うと、いたずらっぽく笑った。
「いいよ!どこいく?」
片付け終わって、研究室を出た。
14号館の中は、必要なところ以外は電気が消えてて。
エレベーターの前に、二人で立った。
「ねえ…覚えてる…?」
「ん?」
教授は微笑んで俺を見た。
「ここ、二宮と初めて会った場所だったよね」
ああ…覚えててくれたんだ…
「よく…覚えてたね…」
「二宮も覚えてた?」
「うん…」
「そっか…」
そっと俺の手の小指に、手を当てた。
「覚えてるよ…ちゃんと…」
見上げると、教授は微笑んで目を閉じた。
…そっと…
宝物に触るみたいにそっと、唇を重ねた
『桜は満開です。どうぞ、あの木の下に埋まった宝物を取りに来てください』