第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
なんだか肩を組んで慰めあってるみたいな二人を尻目に作業してたら、松本教授が研究室に入ってきた。
「二宮、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、はい」
教授室までついていくと、教授は部屋のドアの鍵を締めた。
「教授…?」
なんだか、様子がおかしい。
「どうしたんですか?」
「いや…」
恐る恐る近づいてきて、俺に手を伸ばしてきた。
俺の頬に手が触れると、眼鏡越しの瞳が揺れた気がした。
「なんかあったの…?」
教授はすぐにその手を外すと、俺に背を向けた。
「彼女…いたことあるんだ」
「えっ?」
「その…俺のこと、無理しなくていいから…」
「ちょ、ちょっと…」
無理やりこちらを向かせたら、泣きそうな顔をしてる。
「今はいないよ?彼女なんか…」
「嘘…」
「嘘じゃないよ…だって…」
そっと教授の身体を抱き寄せた。
「俺には、教授しか居ないよ…?」
他のことなんか、考えられない。
今の俺は、櫻井教授の身代わりをどうやったらちゃんとできるのか…そればっかり考えてた。
女のことなんて頭の片隅にもなかった。
「やっぱり…だめだ…」
「え?」
「二宮、俺と居たらだめになる…」
松本教授は身体を離した。
「もう…やめよう…?」