第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「すまなかった…」
俺の腹の上に、教授が果てた。
汗を俺の上にぽたぽたと落としながら、また教授は泣いた。
暫く、俺達はそのまま手を握り合った。
「ごめん…」
「大丈夫…大丈夫だから…」
泣いている顔も、とても綺麗で…
こんな顔も、櫻井教授は
たくさん見ていたんだ
「何か、拭くもの探してくる…」
教授の持ってたポケットティッシュじゃ足りなくて。
教授は防音室を出ていった。
その時、またスマホが鳴り出した。
痛む身体を引きずってスマホまでたどり着くと、手に取った。
画面に表示されていた名前は、櫻井教授だった。
暫く眺めていると、呼び出し音は鳴り止んだ。
そのまま椅子にスマホを置くと、俺は床に寝転がった。
「二宮…?」
松本教授が戻ってきて、俺の身体に手をかけた。
「ごめん…しんどい?」
「ううん…大丈夫…」
また電話が鳴り出した。
「…出なくていいの…?」
「ああ…いいんだ…もう…」
嘘…
なんだろうなあ…
ちっとも忘れられてないじゃないか…
俺にこんなことするくらい…まだ櫻井教授のこと…
「ねえ、教えて…」
「え?」
「櫻井教授と、ここでこんなことしたの?」
松本教授は黙り込んだ。
電話の音は鳴り止まない。
「…してない…」
桜…舞い散る中、佇む二人が瞼の裏に蘇った