第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
ぎゅっと目を閉じてやり過ごそうとした。
だけど、一向に心臓は静まらない。
だって…こんな…こんな近くに、いる…
「二宮…?」
そっとタオルケット越しに、松本教授の手が背中に触れた。
その感触に、鳥肌が立った。
だめだ…だめなのに…
がばっと起き上がるとタオルケットを剥いだ。
その勢いのまま、松本教授を抱きしめた。
「え…?」
「ごめん…なさい…」
身体が震える。
この人の心が、まだ櫻井教授にあるのはわかってる。
わかってるのに、止められなかった。
「少しだけ…このままで…」
「二宮…」
ぎゅっと抱きしめて、感触を忘れないよう心に刻んだ。
俺は…この人のことが…好きなんだ…
多分、初めて会ったあの日から…
「にの…みや…?」
そっと背中に手が回ってきた。
驚いて松本教授の顔を見た。
夕暮れのオレンジ色の光が、そのきれいな顔を照らしていた。
メガネを外して顔でも洗っていたのか、前髪に水の雫がきらきら光っていた。
潤んだ瞳が俺をまっすぐに見つめている。
突然、全身の血が沸騰したように身体を駆け巡った。
強引に教授を抱き寄せると、唇を重ねた。
「っ…」
抵抗しようとする腕を掴んで、ベッドに押し倒した。
「やめっ…」
だめだった。
止まらなかった。
触りたかった。
どうしても、触れたかった。