第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
それからは目の回るような忙しさだった。
初めての一人暮らし。
契約書類なんかは自分でやれってことになって、大家さんに提出する実家の住民票とか初めて区役所に取りに行ったり。
自分用の銀行口座を作りに行ったり。
引越し屋に見積もりを出してもらって、アイミツってやつをやってみたり…
バタバタして引っ越し当日を迎えて、無事に俺は念願の一人暮らしを始めた。
やったことないことばっかりで、ほとほと疲れた。
そんなに荷物はなかったけど、寝る場所を作るだけで精一杯だった。
それでもバイトは毎日じゃなかったし、休まずに行った。
「ニノなんか疲れてるね…」
「そう…?」
「大丈夫?今日、休めば?」
「ううん…大丈夫だから…」
教授室に入ると、松本教授はもう作業をしてた。
「おはようございます」
「ああ…」
汗を拭きながら顔を上げた。
途端、メガネの奥の顔がぎょっとしたからびっくりした。
「二宮!どうしたんだ!」
「えっ!?」
「体調悪いなら、帰りなさい」
「いえ…疲れてるだけですから」
「何言ってるんだ…」
にゅっと手が伸びてきて、俺のおでこに触れた。
「ほら…熱がある」
「え…?」