第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
大学から10分ほど歩くと、閑静な住宅街に出た。
賑やかな街しか知らなかったから、ちょっと驚いた。
「この先だよ」
通りから細い路地に入って暫く歩くと小さなアパートが見えた。
「ここは、学生課でも多分紹介してないとこじゃないかな…」
アパートの隣に民家があって、そこに松本教授は入っていった。
「こんにちはー」
勝手にドアを開けて訪いを入れると、奥からおばあさんが出てきた。
「あらあ…潤くん…」
「お久しぶりです」
「よく来たわねえ…上がって?」
「あ、その前に…この前部屋空いてるって聞いたんだけど…」
教授の問いに、おばあさんはにっこり笑った。
「今、一つ空いてるわよ。二階の角のお部屋…」
「ほんと!?」
嬉しそうに俺を見た。
「ここね、俺が学生時代住んでたところなんだ」
「えっ?」
「この方は、大家さんで俺の親戚なんだ」
なんでも、不動産屋を通さずにひっそりとやっているらしい。
どうも税金対策らしく、家賃も格段に安かった。
「ご、5万…」
とても魅力的だった。
このあたりは、極狭のアパートでも7万はすると聞いている。
だけど、教授が学生時代にいたってことは…古いんだよな?
「内見してみる?」
まるで不動産屋みたいに、教授が言った。