第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「え…二宮ってもう21歳なの…?」
「いい加減にしてくださいよ…俺、3年ですよ…?」
「あ、ああ…そうだったね…」
松本教授がずり下がったメガネを上げた。
「いや、だって…二宮若く見えるから…」
「わかってますよ…時々おまわりさんが声かけてくるから…」
「へ!?」
「居酒屋とかでも、止められます」
「ぶっ…」
ダンボールに本を詰めながら、笑いを堪えてる。
「童顔なのはわかってます」
「ぶふっ…ぶっ…」
「だから運転免許は手放せないんですよ」
「そうだろうね…」
ちょっと涙まで流して笑ってる。
「…思い切り笑えばいいでしょう…?」
「で、でも…悪い…」
「俺がいいって言ってるんだから、遠慮なくどうぞ」
「ぶはっ…」
この人…笑い上戸だったんだ…
暫く止まらない笑いをBGMに黙々と作業をしていく。
「はぁ…笑った…」
「それはよかった」
ふっと、松本教授は微笑んで立ち上がった。
「なんか、飲む?奢るよ」
一緒に教授室を出て、自販機に向かった。
適当に冷たい飲み物を買って、二人で隅っこにあるベンチに座った。
ここは、初めて松本教授を見た場所だ。
ふと松本教授を見ると、遠くを見つめていた。
何を…見ているんですか…?
誰を…思っているんですか…?