第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「…そういうことは奥さんに言ってよ…」
相手は…櫻井教授だな…
「もう、俺に関わらないで…荷物送るから…」
最後は泣いているようだった。
ドアの外で、俺は立ち尽くした。
とても…綺麗だったんだ…
一年前、桜の花びらが舞う夜の構内。
二人はただ立ち尽くして、桜を見上げてた。
とても絵になっていたんだ。
しあわせそうで…あたたかそうで…
そして、儚い風景だった。
電話が終わって、松本教授が動く気配がした。
そっとドアをノックして中に入ると、松本教授は窓辺に立っていた。
「二宮…?」
こちらを振り返ってる松本教授の目は、あの時みたいに赤かった。
何も言わず歩み寄ると、松本教授の隣に立った。
「なに…」
「誰にもいいません…」
「え…?」
「だから…泣いていいですよ」
静かに、松本教授は涙を零した。
首にかかってたタオルを差し出すと、受け取って目元を押さえた。
「ごめん…」
少しだけ…松本教授と俺の距離が近づいた。
次のバイト日から、教授室の片付けは俺と松本教授がやることになった。
研究室のほうの掃除は、大野さんと相葉さんが引き受けて二手に分かれる事になった。
この方が効率がいいからね。
…なんていうのは言い訳で…
ちょっとでも松本教授と一緒にいたかったんだ。
この頃には…
自分の気持ちにはとっくに気づいていたんだと思う…
俺は…松本教授のことが…