第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「そう…なんですか…」
でもあの噂…
火のない所には煙は立たないって言うしなぁ…
「なにかあったのか?」
「いえ…辞められるって聞いたので、これから研究室どうなるのかと思って…」
「ああ…それなら、そのまま俺が引き継ぐから」
「え、そうなんですか?」
「なんだ。俺じゃ不満か?」
「いえ…そんなこと…」
「まあ、こんな時期にな…まだ桜も咲いたばっかりだっていうのにね…」
松本准教授は、窓の外を眺めた。
「君たちも不安だろうが、カリキュラムは俺が…」
「寂しくないんですか?」
「え?」
「いえ…なんでもないです」
そのまま引き返そうとしたら、腕を掴まれた。
「二宮…」
その目は…あの日みたのと同じ色をしていた。
多分…俺の予想が当たってれば…
櫻井教授は、松本准教授に手を出してた。
それもずーっとだ。
「おまえ…どこまで知ってる…」
「なにを…?」
ぐっと松本准教授は詰まった。
その隙に、俺は部屋を出た。
「やっぱりな…」
答えが確信に変わったところで、俺にすることはない。
言いふらすつもりもない。
ただ…俺は…
なんとなく、あの二人に憧れていた。
いつも遠くから見ているだけだったけど…
あの二人には、なにかかけがえのない絆みたいなものがあるような気がして…