第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「はー凄いねえ…女子学生孕ませたとか、男子学生に手を出したとか…」
「え。あの人バイなの…?」
同じ研究室の人たちが、口々に噂をしている。
「…でもさ、なんかあの人色っぽかったよね…」
「そう…?」
相葉くんが隣で、実習の準備をしながらため息をついてる。
「なんかさあ…絵に描いたような完璧さじゃなかった?」
「そうかなあ…」
「ニノのこと、すっごい気に入ってたじゃん。手を出されなかったの?」
「俺は…」
その時、教室に松本准教授が入ってきた。
「揃ってるか?」
「あ、はい…」
「今日は、俺が見るから…」
やっぱり、櫻井教授は姿を現さなかった。
あの1年の時の不思議な出来事は、俺の心にずっと残ってて。
2年が終わってコース選択をする時、俺は迷わず松本准教授のいるコースを取った。
あの時のことは、未だに聞けないでいる。
でも、俺の中ではある答えが出ていた。
実習が終わって、松本准教授の部屋を訪ねた。
「二宮、どうした?」
「あ、いえ…あの、櫻井教授は…?」
「ああ…」
松本准教授は、メガネをくいっと上げた。
あの時はしてなかったけど、最近メガネを掛けるようになった。
「親御さんが倒れられてね…」
「え?」
「昨日から、故郷に帰られてるよ」