第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
なんだか、その風景に釘付けになった。
その人が、泣いていたから
「…君は、理工学部?」
「あ、はい」
「名前は?」
やっと櫻井教授は、その人の腕を離した。
「あ…システムデザイン学科の…二宮です」
「ほう…では、そのうち君に教えることになるのかな…?」
理工学部では2年までは教養や基礎的なことを学び、3年時に希望のコースに分かれる。
希望のコースに入れるかは、それまでの成績次第。
櫻井教授は、システムデザイン学科の教授だった。
ちらちらと櫻井教授の隣の人を見ていると、教授は笑った。
「こっちは、准教授の松本くんだ。ちょっと目にゴミが入ったみたいでね…」
「はあ…」
でもさっき、走ってたじゃないか…
「それじゃ…失礼します…」
なんか、長居してはいけない雰囲気だったし、喋ることもないからすぐに部屋を出た。
エレベーターホールで、エレベーターが来るのを待っていると、松本准教授が走ってきた。
「二宮くんっ…」
その時、ちょうどエレベーターが来たから乗り込もうとしてたんだけど、強引に引き止められた。
腕を痛いほど掴まれた。
「い、痛いです…」
「さっき…」
「え?」
「さっき、何か見た?」