第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
自動販売機もあるから、どうやらここは休憩スペースなのかな。
端っこにある椅子に腰掛けて、もういちど櫻井教授の部屋を思い出そうとした。
「確か、エレベーターを降りて右…」
その時、光の中に誰かが入ってきた。
「あ…」
俺を見ると、慌てて踵を返していった。
「待って…」
ここに来てから人っ子一人会っていなかった。
あの人を逃したら、誰にも聞けない…
慌てて立ち上がると、後を追いかけた。
廊下に戻ると、その人の後ろ姿が部屋に入っていくのが見えた。
「ま、待って…!」
バタバタ走って、その人のあとを追いかけて部屋のドアを開けた。
慌てていたから、ノックするのも忘れてしまった。
「あっ…あのっ…」
窓辺に人影が見えた。
その人影は、二人…
「なんだ…ノックもせずに。誰だ」
「あっ…すいません。僕、櫻井教授に届け物を…」
「ん?見たことない顔だな…1年か?」
「はい…あの、松岡教授に頼まれて…」
「ああ…そこに置いておいて」
「へ?」
「私が櫻井だ」
「あっ…し、失礼しました…」
頼まれたものをデスクの上に置くと、やっと周りが見えた。
櫻井教授は、さっき逃げていった人の手首を掴んでいた。