第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
14号館のエレベーター。
この前に来ると、いつも胸が苦しくなる。
「ニノ?どうしたの?」
同じ研究室の相葉くんがエレベーターを止めたまま、声をかけてくれた。
「あ、ああ…ごめん…」
乗り込むと、微笑んでクローズボタンを押す。
「体調でも悪いの?」
相葉くんの隣で、大野さんが心配そうにこちらを見ている。
「ううん…なんでも…」
あれは…入学したばかりの頃…
もう2年も前になる。
教養で講義を受けている教授から、理工学部の教授に届け物を頼まれて、14号館へ足を踏み入れた。
キョロキョロしながら、なんとかエレベーターを探して…
この時は、まだ教養やら基礎やらの講義ばかりで、実習を行うピカピカの14号館にはあんまり来たことがなかった。
ここが使えるのは3年からだ。
理工学部に入りたての俺は、ちょっと得した気分になりながら喜んで届け物を引き受けたのだ。
エレベーターで二階に上がると、櫻井教授の部屋を探した。
あらかじめ場所は聞いてあったけど、キョロキョロしすぎて自分の居場所を見失っていた。
「やばい…迷ったかも…」
心細くなって、明るいほうへ歩いてみた。
廊下の突き当りに開放的な空間があって、そこはガラスの窓からたくさん陽の光が入ってきてた。
「まぶし…」