第56章 傾城屋わたつみ楼
別世界とはこのことか
青を基調とした座敷は、畳までが青く染められている。
砂壁の色も青く、天井までも薄い青色だ。
奥に見える襖も、入り口とは違った渋い青い色をしている。
木の机が部屋の中央に置かれているが、黒の漆に所々青く光る螺鈿が埋められているようだ。
窓であろう場所に嵌っている障子も、桟までが薄い青。
茶箪笥みたいな背の低い収納も、机と同じ造りで。
その部屋にある何もかもが青かった。
「ようこそ…蒼の間へ…」
入り口で立ち尽くす俺の前に、蒼乱が三つ指を付いて頭を下げて出迎えている。
部屋は青なのに、蒼乱が身につけているのは真っ赤な襦袢だった。
赤色が鮮やかすぎて、めまいがした。
「それでは…明朝まで、ごゆっくりと過ごされますよう…」
雅紀は手をついて頭を下げると、入り口の襖を閉めて部屋を出ていった。
「櫻井様…」
呆然としている俺の手を、蒼乱は取った。
そのまま立ち上がると、俺を座布団まで誘った。
「お水をお持ちしましょう…」
入り口のすぐ横にある襖を開けて中に入ると、すぐに出てきた。
どうやらそちらは台所のようだった。
コップに満たされた水を俺の前に置くと、にっこりと笑った。