第56章 傾城屋わたつみ楼
温まって浴室から出ると、糊の利いた浴衣と丹前が用意されていた。
バスタオルで体を拭いていると、従業員が後ろに回って浴衣を着せてくれた。
洗面台の前の椅子に座らされると、雅紀が髪を乾かしてくれた。
「そ、そんなことくらい自分でやります」
そういったんだけど、にっこり笑って拒絶された。
身支度が終わると、雅紀が先導して廊下に出た。
玄関の方まで戻って、大階段を登っていく。
「おいらんや部屋持ちの子は全て二階に部屋がありますので…お手洗いや浴室は、各部屋についております」
「はあ…」
緊張で、それどころじゃなくなってきた。
おいらんの部屋の前まで来ると、雅紀はいたずらっぽく笑った。
「大丈夫。全て蒼乱が致しますから…」
それって男として情けなくないか?
でも、俺は男を抱いたことなんてないし…
初めてのことは教えてもらうしかないってこともわかってる。
腹に力を入れて息を吐き出した。
雅紀が部屋の戸に手を掛けて、そっと開いた。
「失礼します。おいらん、お連れしました」
「あい。お通しして」
”蒼の間”と書かれた札を見ながら、中にはいった。
入り口でスリッパを脱ぐと、一段上がった先に襖がある。
渋い青の色で染められた襖紙を眺めていたら、雅紀がそれを引き開けた。
「櫻井様、どうぞ」