第56章 傾城屋わたつみ楼
引き回しの雅紀は、簡単にここのシステムを説明してくれた。
今日は初会だから、敵娼はおいらんの蒼乱がしてくれるが、次回からはどの子でも指名してもいいとのこと。
4人しかいないから、一通り遊んで気の合った子と遊んでいってくれればいいということだった。
「…全員めぐるには時間がかかりそうですね」
「まあ…そうでございますねえ…なにしろ4人しかいないので、このようなシステムになっておりますので…」
「そういうものですか…」
ちょっと思ってたのとシステムが違ったから、間の抜けた返事になった。
遊郭では、大体が決まった敵娼と馴染みになって…
もしも敵娼を変える場合は、それなりの悶着があったという。
まるで夫を取られた妻のように狂乱する遊女もいたとか。
「今日は蒼乱がちょうど空いておりましたので、ようございました」
蒼乱の顔をみると、またにっこりと微笑んだ。
「蒼乱はここでは人気ナンバーワンなんですよ」
だろうなと思った。
こんなに美しい男、他にはいないんじゃないか…
「ラッキーだった…」
「え?」
「あっ…」
心の声が漏れ出てしまった。
「ふふ…櫻井様、かわいい…」
雅紀が畳に手を付いて頭を下げた。
「櫻井様、ここは日々に疲れた男性の息抜きの場所でございます。浮世の憂さを忘れ、ひとときの夢を見る場所でございます。どうか、ここのことは信用できる方以外には漏らさないよう…」
目を上げて、しっかりと俺を見た。
「どうぞよろしくお願い致します」