第56章 傾城屋わたつみ楼
おいらんにお酌をされながら、酒を飲み料理を食べた。
その間、引き回しの雅紀がこの遊郭の説明をしてくれた。
「こちらでは、昔の遊郭を再現しておりますが、敵娼(あいかた)は男です。だので、昔の郭のようなしきたりもございません。」
ふっと蒼乱は微笑むと、また俺に酌をしてくれる。
「お抱えの娼妓も4人しかおりませんので、一人の娼妓に決めろとはいいませんので…」
「はあ…」
ちらり、雅紀は俺の顔を真顔で見上げた。
「ですが、うちの子たちに手荒な真似をしてもらっては困ります。そのようなことをなさる場合は、然るべき手段を取らせていただきますので」
「そ、そんなことしないよ」
「ええ…松岡様より櫻井様のお人柄は伺っておりますので…」
にっこりとまた人のいい笑顔を見せた。
「ですが、これは最初にお伝えさせていただいている、謂わば注意事項でございますので…」
「わかった…」
松岡さんには口を酸っぱくしてここでの振る舞いに気をつけるよう言われている。
噂で聞いた話では、ここの子に不躾な真似をした男はいつの間にか消えていたという話だ。
まだ死体にはなりたくはなかった。
だが、好奇心には勝てない。
男と寝たことなどなかったが、世の中の殆どの遊びをし尽した男たちが夢中になる男廓遊びの誘惑に、俺は勝てなかったのだ。