第56章 傾城屋わたつみ楼
引き回しに手を引かれて、俺の前にしゃなりと座った。
畳に三つ指を着くと、俺の顔をじっと見た。
「お初にお目にかかります。蒼乱(そうらん)でございます」
少しだけ頭を下げると、また俺の顔をじっと見た。
「あ…ああ…よろしく」
長い髪を日本髪に結ってある。
そこにはべっ甲のかんざしがこれでもかと刺さっている。
青色をベースにした錦絵のような打ち掛けに大きな太鼓帯を前にしてる。
「初会のお酌をしてよろしいですか…?」
「うん…」
畳に手をついてにじり寄ってくると、俺の横に座った。
猪口を手に取ると、蒼乱は徳利を手にとって静かに酒を注いだ。
酒が満たされると、ぐいっと飲み干した。
「いい飲みっぷり…」
くすりと笑うと、俺の手から猪口を取り上げた。
「櫻井様も…」
「あ、ああ…」
徳利を手に取ると、酒を注いだ。
「いただきます」
額まで猪口を持ち上げると、一気に飲み干した。
ふうっと息を吐くと、にっこりと笑った。
どきり、心臓が高鳴った。
きゅっと猪口についた紅を拭うと、また俺の手に猪口を握らせた。
「さ、もうひとつ…」
ゆっくりとまた、酒を注いだ。
夢のように美しい男…
そう、ここは男が接待をする遊郭。
昔で言うと陰間茶屋ってとこか…
でも陰間茶屋と違うのは、ここにいる男たちは女のように着飾っているという点だ。
男が相手をして昔の遊郭遊びを再現しているというので、金持ち連中の男の間で密かに話題になっていた。
まさか、ここに自分が来ることができるなんて…
夢見てるみたいだ。