第56章 傾城屋わたつみ楼
瀟洒な作りの座敷に通されると、ふかふかの座布団に座らされた。
ここは一階にある座敷で、見渡した所艶めかしい雰囲気のものはなかった。
床の間にはシンプルな水墨画と可憐な生花が飾ってある。
「本日はおはつでございますので、こちらでおいらんを呼んでおります。もしもお気に召さなければ、交代することも可能ですので」
「い…いや、おいらんなどと、そんな位の高い人なら交代するといえば気を悪くするでしょう」
「ほ…櫻井様は遊郭のことをよくご存知ですね」
「ああ…」
実はここに来る前散々勉強したのだ。
無駄に好奇心が旺盛だから、困ったものだと自分でも思うが、出先で恥をかくよりはいいと思ってる。
「ご安心を。この店にはおいらんが二人と座敷持ちが二人の小さな遊郭でございます。茶屋があるわけでもございませんし…江戸時代の遊郭のような事は言いませんから…」
「はあ…」
引き回しの雅紀がひっこむと、ふすまが開かれ料理や酒が運ばれてきた。
御膳に載って、次々と運び込まれてくる。
遊郭があった時代の映画でも見ているような錯覚に陥った。
料理が出揃ったと思われる頃、引き回しの雅紀がまた座敷に入ってきた。
「おいらんが参りました」
畳に手をついて挨拶をすると、ふすまを大きく開いた。
「失礼します…」
か細い声が聞こえたかと思うと、豪華な着物を纏ったおいらんが座敷に入ってきた。