第52章 【Desire】24 ゆなゆさまリクエスト
翔の腰を引き寄せ、膝の上に座らせた。
まだ手が濡れたままで冷たい。
「ほら…手…貸しな?」
西表はもう夏みたいな気候だけど、それでも水はまだちょっとだけ冷たい。
「和也…」
「温まった?」
「うん…ありがとう」
ちゅっとほっぺにキスをすると、翔は抱きついてきた。
「ごめんね…和也…」
「なにが…?」
「だって本土に戻るっていうから…」
「ああ…俺の身体を心配してくれてんだろ…?わかってるよ。大丈夫」
翔は身体を起こすと、俺の顔を両手で包み込んだ。
「このまま…西表で暮らそうか…?」
「えっ?」
「診療所をここに作って…島の人を診て…和也は事務局長ね」
「何言ってんだ…」
「僕は…真剣だよ?和也…島の気候は和也に合ってるみたいで、本当に血液検査の結果もいいんだ。だから…」
「翔…」
もしも…
もしも俺がこのまま肝がんに移行して…死んでしまったら…
「だめだよ…翔の帰る場所、あるんだから」
「和也っ」
「今はね…人生の長い休暇でいいと思う。でもね、翔のその内科医としての腕は、もっと多くの人の役に立てるんじゃないの…?」
40歳近くになると、いろいろと考える。
自分が死んだ後、愛しい人がどうやって生きていくのか…
「もちろん島の地域医療に貢献することも素晴らしいと思うよ…?だけど、翔にはもっと他に救うべき人がいるんじゃないのか?」