第49章 【Desire】21 kurisuさまリクエスト
ぱきっとアンプルの先を折る音がする。
翔のベッドの傍らには、医師と看護師がいる。
注射剤を吸い上げると、翔のまくり上げた腕に静かに注射針を当てた。
「先生…今回も…」
「ああ…助かりそうだな…」
重い沈黙を俺は天井から眺めていた。
「…もう長くないと思ったんだけどな…軽井沢に来てから、持ち直したな…」
「東京の櫻井様になんと報告しましょう」
「ありのままに…あなたの息子さんは持ち直しましたよ、と…」
「また叱られますわねえ…」
「怒るほうがおかしいんだ…人の命を何だと思ってるんだ…」
注射剤がなくなると、静かに針を引き抜いた。
「でも先生…私達の雇い主は、この方が長生きされるのを望んでは居ません」
「そういうことを患者の前でいうものじゃない!」
医師は看護師を怒鳴りつけて、寝室から追い出した。
「…因果な商売だよ…医者なんて…」
処置が終わると医師は静かに寝室を出ていった。
俺は天井から降りると、静かに翔のベッドまで歩み寄った。
蒼白な顔のまま、翔は眠り続けている。
もう三日、目を覚まさなかった。
「翔…いい夢を見るんだよ…」
翔のまぶたに手を置くと、目を閉じた。