第46章 【Desire】18 高齢者さまリクエスト
お師匠は現在、自分で付けた名前を名乗っている。
それについてもいろいろ言われていたんだけど、お師匠は頑なだった。
「久寿を貰うんだ。おまえの襲名と同時だよ」
「えっ…同時!?」
「俺は新しい櫻井流を作っていきたいけど…どうしてもな。名前と血脈には敵わない部分があってな…巻き込んでごめん」
「そ、そんなっ…僕のことなんて…」
「雅紀には…ずっと俺についてきて欲しい」
「お師匠…」
「櫻井という大きな流派の流れには乗れないかもしれない…それでも、ついてきて欲しい」
「あ…当たり前じゃないですか!」
「雅紀…」
「僕のお師匠は、あなたしかいません!」
お師匠はふっと笑うと、僕の手を取った。
「俺の弟子も、雅紀だけだよ」
「えっ…」
「あー…生徒さんは別な?」
「い、いや、それはいけません」
「なんで?」
「お師匠の持っているものを、伝えていかなきゃ…それは、伝統芸能の使命です」
「雅紀…」
「だから、お弟子さん取ってください!」
お師匠はお弟子さんは取っていたんだけど、今じゃ全部宗家に移してしまって…
「今は…雅紀だけでいい」
僕の手の甲に、ちゅっと唇を付けた。
「だって、新婚みたいなもんなんだからさ…」
ぼふんっと顔が赤くなるのがわかった。