第46章 【Desire】18 高齢者さまリクエスト
「双寿…ですか…」
「ああ。いい名だろ?」
リビングでくつろぎながら、お師匠がとんでもないことを言い出した。
「そんな…双寿は、お師匠のお祖父様の…」
「そう。じいさんの若い頃の名前だ。おまえに継いでほしい」
「でっ…でもっ!」
「俺は、親父の名前貰うことに決まってるからさ。じいさんの名前貰ってくれよ」
「いやいやいやいや…お師匠方にもっと適任がいらっしゃいますから…」
「おまえが適任だと、俺は思ってるよ」
お師匠のお祖父様はもう鬼籍に入っていて、僕はその舞を見たことはなかった。
だけど、伸びやかで素直な舞が身上だったと櫻井の大先生から聞いたことはある。
「でっ…でも、宗家を継がないのにそんなこと…」
「ああ…それについては、次期宗家の修には許可はとってあるから」
「ええっ…」
修さんとは…お師匠の弟さんで…
お師匠とは年が随分離れてるけど、とても温和でしっかりとした方だ。
お師匠のお見合い騒動から、宗家については何度も話し合いがされた。
僕のお師匠は頑なに宗家を継ぐことを断って、弟の修さんのほうが適任だとずっと言い張っていた。
「え…でも大先生の名前貰うって…」
「ああ…親父が若い頃貰った名前な。今の名前は修が継ぐから」