第45章 【Desire】17 りおなさまリクエスト
「潤…」
「うん…」
「伊賀に帰れ」
「えっ…」
雅は懐から銭の入った袋を出すと、潤に渡した。
「頭には俺は死んだと伝えておけ」
「雅…!」
「さあ、行け」
潤の身体をトンっと押すと、雅は飛び上がった。
「嫌だっ…」
駆けていく雅の背中に向かって、潤は叫んだ。
「もう失いたくないっ…」
悲痛な声だった
雅の動きが止まって、くっきりと朱の中に影を作る。
「おまえだけでも生き延びろ…」
「同じことだ…」
「潤…」
「帰ったとて一人だ。死んでいるのと何が違う」
潤もまた…
雅と同じように、身体に刻み込まれた男を忘れることができないのだろう。
あの時の…
無門と翔が交わっているのを見た雅と、同じ目をしている。
「雅が…居てくれるなら、俺は何もいらぬ」
「行け…」
「命すらいらぬ…雅っ…」
「行けというに!」
雅の心が自分に無いのは知っている。
だが、相手の心も雅に無いのも知っている。
その相手は…二親を殺したかもしれない無門…
憎いとは思う
だけど名も無き草が非業に死んでいくのは、定めである
戦乱の世では、畳の上で往生などできないのはわかりきっていることだ。
今はただ、雅を失いたくなかった。
ここまでついてきたのも、雅を止めるため。
死なせないためだった。