第39章 【Desire】11 智の心さまリクエスト
何かが頬を掠めていった。
気がついたら、俺は地面に寝転がっていて…
空は薄暮れて、暗くなり始めていた。
「え…?」
俺の身体に寄り添うように、誰か寝ている。
「誰…」
身体が冷えないように、温めるように寄り添ってる。
男だ。
頬に触れていたのは、そいつの髪だった。
徐にそいつが顔を上げた。
目が、赤かった
直感で、人ではないことを悟った。
毛皮でできた服を身に纏い、長い髪は後ろで束ねられてる。
人間なんだけど…多分、違う。
もののけ…
そう言えば小さい頃じいさんが言っていた。
この杜には、守り神のもののけが居るって。
だから、この奥には入ってはいけないよって…
どれほど見つめ合ったろう。
赤い瞳は、じっと俺を見つめて動かない。
綺麗な宝石のような瞳に吸い込まれるようだった。
無心に俺を見つめる頬に触れてみたくなった。
そっと手を伸ばして触れると、少し身を引いた。
「待って…」
不思議と怖いと思わなかった。
ただ、ぬくもりが離れていくのが嫌で…
俺は思わずその腕を引き寄せて、抱きしめていた。
「いかないで…」
つぶやくと、もがいていた身体がピタリと止まった。
そのまま、もののけはじっと俺の胸に身を預けた。
「ありがとう…」
何も言わないけど…
なんだか俺を癒やしてくれている気がした。
暫くそうしていたら、あたりは真っ暗になった。
もののけは起き上がると、俺の顔を覗き込んだ。
帰らなくていいのか聞いているようだった。
たった数分一緒にいただけなのに…
離れがたくなっていた。
黙って首を横に振ると、もののけは厳しい顔をした。
身を翻すと、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
どうやって戻ったのかわからない。
じいさんの家は大騒ぎになっていて…
あの杜へ入ったのかとしつこく尋ねられた。
なんとかごまかして風呂に入って眠ったが、俺はあのもののけが忘れられなくて。
次の日、明るくなると家を抜け出して、また杜に入った。
あの大きな岩までたどり着くと、もののけは居た。
昨日、俺が寝そべっていた場所に、眠っていた。
「もののけ…」
つぶやくと、もののけは顔を上げた。
俺をまた無心でみあげると、腕を広げた。
俺はその腕を取って、抱きしめた。
離れたくない
こいつと…ずっと一緒にいたい…