第39章 【Desire】11 智の心さまリクエスト
じいさんは何も聞かなかった。
ばあさんと一緒に、俺の面倒を見てくれたが、一日中ぼけっと過ごしている俺に、なにも言っても来なかった。
俺の家は都心にあったが、ここはなんにもない。
朝方寝ていると、キジの声が聞こえたりするくらいだ。
隣の家も一キロ先っていうほどの田舎で。
こんな田舎だから、訪ねてくるひともなく静かだった。
じいさんの家の前には神社があって。
村の鎮守だとかで神主もいない寂れた神社だったが、地元の人は大切にしているようだ。
じいさんとばあさんは一週間に一度は、そこの境内を掃き清めている。
本殿は小さかったが、この神社の杜が広大で。
小さい頃、母親の帰省で連れられて来たことがあるが、遊びに入った杜の中で迷子になったこともある。
ある日、じいさんとばあさんが境内の掃除をするのに付き合っていたら、杜の中で声がした。
なんだろうと思って、少し足を踏み入れた。
枯れ枝を踏み鳴らしながら進んでいくと、小さい頃迷い込んだことを思い出した。
もう声なんて聞こえてなかった。
ただ、幼いころの記憶を辿って、俺は歩を進めた。
杜の中は薄暗い。
木漏れ日がある場所だけが明るい。
進んでいくと、すこし拓けた場所に出た。
日の光が、眩しくて。
ふと後ろを振り返ると、もう何処から来たのかわからなくなっていた。