第38章 【Desire】10 Namakoさまリクエスト
抱きしめられた腕が緩んだかと思うと、身体が離れた。
そのまま彼は、俺の顔をじっと見て。
頬を涙が伝い落ちていった。
こんなきれいな涙はみたことがなかった
「…ありがとう…」
こんなに大胆なことをするくせに
こんなに繊細で
そのきれいな涙に見惚れていたら、いつの間にか唇が重なっていた。
熱い…
その日から、密かな恋は始まった
「おはようございます」
「…おはようございます…」
朝、学校の近くの駅で偶然出会う。
こんなことが、たまらなく嬉しかった。
「中間考査の問題はできましたか?」
「ええ…実はほとんど寝てません」
たったこれだけの会話なのに…
先生の生活が垣間見えるようで、嬉しかった。
「寝癖…」
「えっ」
「嘘」
「も、もう…大野先生…」
拳一つ分ほど空いた距離…
でも、近くに居られる。
たったそれだけなのに、嬉しかった。
嬉しいが、毎日毎日増えていく。
「え?居酒屋ですか?」
春の運動会の最中、たまたま松本先生と席が隣になった。
その時小さな声で、夜二人で飲みに行かないかと誘われた。
「ええ…その…行きませんか…?」
「あ…ええ…はい…」
こんなこと、初めてで…
初めてのキスから、俺達は学校以外で逢うことはなくて。
休みの日は、メッセか電話とか。
どこか…前に進めない雰囲気で…
っていうか、どこに向かっていけばいいのかわからなくて。
だから、本当にこの誘いは嬉しかった。