第38章 【Desire】10 Namakoさまリクエスト
運動会の打ち上げと称して、飲み会が行われるのは常のことで。
俺と松本先生はそれが終わってから、さらに別の居酒屋に二人で行った。
「…なんか変な感じですね…」
「ですね…」
おしぼりで手を拭きながら、なんとなく先生の顔が見られなかった。
幸いカウンターだったから、酒を飲みながらぽつりぽつりと喋って時間が過ぎていった。
二時間ほど経ったところで、松本先生が立ち上がった。
「そろそろ出ましょう」
「ハイ…」
会計をして外に出ると、夜の外気は冷たい。
酒で身体は火照っているけど、少し身震いをした。
「寒いですね。やっぱり夜は」
「ええ…」
なんとなく、黙り込んだ。
帰りたくないけど…
それを言ってしまったら、この後どうなるのか。
子供じゃないんだし、想像がつく。
「俺の部屋…来ます?」
思いがけない言葉に顔を上げたら、松本先生は真っ赤な顔をして横を向いていた。
「嫌じゃ…なければ…」
「い…嫌なわけないです!」
そういうと、松本先生は驚いた顔をして俺を見た。
「じゃあ、行きましょう」
一駅先の、こじんまりとしたアパート。
中に入ると、そっと松本先生は俺の手を掴んだ。
そのまま胸に抱きとめられて…
それだけで、ひどく安心した。
この腕を…離したくない。
「大野先生…」
「はい…」
「ちゃんと言ってなかった…」
「え?」
「僕は…あなたが好きです」
心臓が、びっくりするくらいきゅうっとした。
「僕も…好きです…」
俺達は…男同士だけど…
出会ってしまったんだ。
だから…離さない…離れない
この密やかでしめやかな恋はずっと…
続いていく
END