第38章 【Desire】10 Namakoさまリクエスト
「相談に乗って欲しいんです…」
俯きながら言う姿は、今までみたことのないものだった。
「ええ…僕で宜しければ…」
その時、美術室とつながるドアがノックされた。
「はい」
「しつれいしまーす」
美術部の部長の女生徒だった。
「あのね、今日人の集まり悪いし、絵も乾かし待ちだから、もう部活上がってもいい?」
「ああ…いいよ。もう誰もいないの?」
「はい。皆で帰ります」
「わかった。戸締まりしとくから行きなさい」
「はあい」
せんせいさようならーと声を残して部長はドアを閉めた。
「すいません…」
「いえ…」
しばらくすると、生徒たちが何かおしゃべりしながら教室を出ていく足音が聞こえて…
美術準備室はまた、静寂に包まれた。
いつのまにか、アヴェ・マリアも聞こえなくなっていた。
松本先生は窓の外に目を向けたまま黙っていた。
俺は話しかけることもできないで、ソファの横に立ち尽くしていた。
「…大野先生のクラスの女生徒に告白されました」
一瞬、頭が真っ白になった
「そう…ですか…」
それ以上、言葉が出なかった。
「…それだけ…?」
「え…?」
「他に…言うことはないの…?」
ソファの前のミニテーブルにマグカップを置くと、松本先生は立ち上がった。