第36章 【Desire】8 くりんさまリクエスト
「あー!やっとここまで来たなあ…」
紫煙を吐き出しながら、櫻井さんはネクタイを緩めた。
「ええ…本当にもう櫻井さんには頭が上がりませんよ」
「なにいってんですか…松本さんが誠意をもって営業してくれたからこそですよ」
照れながら、自分のタバコに火をつけると、少し吸い込んだ。
ホントはやめてたんだけど、櫻井さんが吸ってるから最近また吸い始めた。
こうやってちょっとの時間、仕事を離れて喋れることが嬉しかったから。
「…松本さんって、どこ住みなの?」
「え?ああ…家は、目白です」
「実家?」
「はい。一人暮らしも考えてるんですけどね…」
「へえ…でも山手線沿線だったら、便利だもんね」
「そうなんですよ。だからなかなか出れなくて」
「わかる」
「…櫻井さんは?」
「俺は世田谷。実家なんだ」
櫻井さんのこと、またちょっと知れた。
すっごい嬉しかった。
にやにやするのを止められない。
「でも、もうすぐ引っ越すんだ」
「え?」
「いい加減ね、会社の近くに越そうと思って…」
「そうなんですか」
「でもなかなか時間取れなくてさ…」
「お、俺、手伝いに行きます!」
「えっ?」
「学生時代、引越し屋でバイトしてましたから」