第33章 【Desire】5 リンネコさまリクエスト
「あ…すいません…」
その男性の手を取って、なんとか立ち上がる。
「あ、あれっ!?」
肩が軽いと思ったら、持っていたトートバッグが足元に落ちて中身が飛び出していた。
派手に俺のものは四方八方に飛び散っていた。
「ああ~…もう…」
「俺、手伝いますよ」
その男性は大きなマスクを付けていて、キャップを目深にかぶっていた。
カーキのモッズコートを着て、細身のジーパンにハードな黒いブーツを履いている。
慌てて財布やスマホみたいな貴重品から拾っていたら、男性は殆どのものを集めてきてくれた。
「…あの…」
「あっ…ほんとにすいませんでした!ご迷惑おかけしました」
ニット帽を取って、ペコリと頭を下げた。
「…いえ、このくらいいいんですよ…」
男性は俺の手に荷物を渡してくれた。
「あっ…」
その中に、ディスコスターのDVDのパッケージがあった。
一番上にあったそれは、表面に大きな擦り傷ができていた。
「ああ~…」
今日買ったばかりだというのに…!
あのサラリーマンっ…
キョロキョロと周りを見渡したけど、もうそいつの姿は見えなかった。
「はぁ…」
ため息をつきながら、そっとそれをトートバッグに丁寧に入れた。
男性は、それをじっと見ていた。
「……?」
見上げると、男性は慌てて目を逸した。
「ファン…なの…?」
「え?」
「その…相葉雅紀の、ファン?」
「ええ…もうデビューした時からのファンです」
「そうなんだ…」
そっと男性は俺の肩に手を置くと、耳元で囁いた。
「ちょっとつきあってよ」
「えっ?」
男性は俺の腕を取ると、足早に歩き出した。
「ちょっ…ちょっとなんなんですかっ!?」
駅の近くの枝道に連れて行かれて、やっと男性の足は止まった。
「いつも、応援ありがとう」
くるっと振り向いた男性はマスクを外して、キャップを取った。
ん?どっかで見たことのある顔だ。
ん?
「――――っあひゃあっ…!!!!」
なんとそこには、俺の憧れのディスコスターが居た。