第29章 【Desire】1 あにゃさまリクエスト
「初めて…中にくれたね…」
「馬鹿…あれは事故だ。おまえが離さないから…」
「ふふ…でも嬉しい…」
素っ裸のまま、布団に二人で包まった。
「腹、痛くなるぞ?風呂入ってこいよ」
安アパートは寒くて…
俺達は抱き合ったまま囁き合う。
「ん…もうちょっと、このまま…」
「おまえ、女みたいだな…」
ぎゅっと俺の胸に抱きつくと、また笑った。
「だって…俺は先生の女でしょう?」
なんでこんなことになったのか…
貧血を起こした大野を保健室に担ぎ込んだ時…
養護教諭が休みで、担任の俺は授業がなかったからずっと付き添った。
その時、大野の方からキスをねだってきた。
中性的なその顔を見ていたら、なんとなく流された。
フェラも上手いし、挿れてみたら女よりも締りが良かった。
そのままずるずるとこんな関係になって、一年経つ。
今では、俺の安アパートが逢瀬の場になっていた。
「家…帰らないと遅くなるぞ…」
無駄だとはわかっていたが、一応言ってみた。
「…いい…どうせ誰もいないから…」
大野の家は…家庭崩壊している。
不倫の挙句、帰らなくなった父親。
その父親に当てつけるように外に愛人を作った母親。
残された息子は…
担任の教師と、こんなことをしている。
「ねえ…先生…」
「ん…?」
「なんで、今日、怒らなかったの…?」
「さあ…無駄だからだろうな…」
「無駄…?」
「そう…あんなやつらに怒るエネルギーが無駄なんだよ」
思わず本音が出て、苦笑してしまう。
「あんなやつら、どうなったって…」
「先生…」
何か言おうとする大野の身体を離した。
「帰れ」
これ以上居ると、何を口走るかわからなかった。
「嫌…帰りたくない」
「だめだ。帰れ」
「先生っ…」
起き上がった俺の背中に、大野は抱きついてきた。
「…先生…離れたくない…」
「だめだ…俺とおまえは…」
「せんせいっ…」
痛いくらい、大野の腕に力が入った。
「離れるくらいなら…死ぬ…」
「なにバカなこと言ってんだ…」
「ねえ、先生…」
振り返ると、大野の瞳に吸い込まれるようだった
いっしょに、死のう…?