第28章 number00
「さと…し…」
ショウの手が、動いた。
「ショウっ!?」
「泣かない…で…?」
「ショウっ…ショウっ…」
「そばにいるよ…」
ゆっくりとした動作で、ショウは俺を抱きしめた。
「俺も…智が…好きだよ…」
もっと…
早く伝えればよかった
「ショウ…好きだよ…」
「智…好きだよ…」
「行かないで…ショウ…」
「さと…し…」
また動かなくなってしまったショウの身体を力いっぱい抱きしめた。
「ショウっ…」
「じゃあ、お預かりしますね…?」
二宮は気の毒そうな顔で俺を見る。
「保管…しておいてくださいね…?」
「ええ…ショウのデータは貴重ですから。全部保管しますよ」
「勝手に捨てないでよ…?」
「わかっていますって」
ぽんぽんと二宮は俺の肩に積もる雪を払った。
「さあ、大野さんは生身の人間なんだから風邪を引きます。お家に入って…」
「え…?」
「私も、アンドロイドなんです」
「えっ…ええええっ…」
くすっと笑うと、二宮はバンに乗り込んだ。
「大野さん、お元気で」
雪の降りしきる中、ショウの身体を載せたバンは走り去った。
いつまでも、いつまでも俺はそれを見送った。
二宮は去り際、俺に約束してくれた。
”いつか…ショウを直すことができたら…その時は真っ先にお知らせします”
今の技術では、ショウの再生は難しいらしい。
直ってきたとしても、また一から全部教え込むことになる。
つまり4年分の俺との記録は、全部なくなってしまった状態で来るってことだ。
手のひらのAIチップを見る。
これは社の好意で、俺に残された。
ショウの中枢の一部分だ。
また一粒、涙が溢れた。
ショウ…また、おまえに会いたいよ…
雪は、どんどん降り積もる。
真っ白な世界で、俺はいつまでもショウとの4年間の思い出に漂っていた。
いつまでも…いつまでも…
【number00 END】