第3章 車の中でかくれてキスをしよう
そっとニノが俺の顔を見る。
一筋、涙がこぼれていく。
ニノは微笑むと、目を閉じた。
「ありがとう…翔ちゃん…」
また一筋、涙がこぼれていく。
俺はそれを指で拭うと、どうしようもない気持ちになった。
「泣くなよ…」
「うん…」
まだ前の車は動かない。
遠くにサイレンの音が聞こえる。
赤色灯まで見えている。
前方で事故があったようだ。
しばらくこの渋滞から抜け出せそうもない。
パーキングにギアを入れると、俺はシートベルトを外した。
「え…?」
ニノのベルトも外すと、そっと抱き寄せた。
「翔ちゃん…」
「いいよ…こうしてよ?しばらく…」
ニノは抱きしめられると、安心する。
だから俺はニノを抱きしめたんだ。
あの時みたいに…
「翔ちゃんっ…」
ぎゅうっとニノが抱きついてきて、また少し声を上げて泣いた。
俺はニノの背中を擦りながら、ただ抱きしめていた。
「ニノ…大丈夫だから…俺達が居るから…」
「うん…うん…」
「だから一人で抱え込むなよ…」
「ありがとう…翔ちゃん…」
涙に濡れた顔を上げると、ニノは微笑んだ。
そのままニノの顔が近づいてきて、俺達はキスをした。