第3章 車の中でかくれてキスをしよう
「なんでもない…」
ぽつりと答えると、ニノは何も言わなくなった。
不意に顔を背けると、そのまま窓の外を眺めてる。
その肩が、ちょっと震えてる気がした。
「なんでもないって…嘘だろ?」
「え…?」
「俺にくらい…正直に言えよ」
ハンドルを持つ手を離して、その肩に手を置く。
渋滞にひっかかってしまったらしく、さっきから車は前に進んでいない。
「他のやつらに言えなくても…俺には言えない?」
ニノが俺と微妙な関係だったことは、誰も知らない。
二人だけの秘密で。
だから、俺にだけ…あんな顔見せてたんだってわかってる。
「俺に言いたいから…今日、来るんじゃないの…?」
ニノの肩は震えていて…
泣いているの…?笑ってるの…?
「翔ちゃん…」
「ん…?」
「俺…間違ったこと、してないよね…?」
その声は、消え入りそうな声で。
多分、この前から続くバッシング。
そのことを言っているのだろう。
敢えてニノが取った、勇気ある行動を勘違いした奴らが好き勝手に言ってることだ。
「してない。ニノは間違ってないよ?」
体制への反抗と言ったら、聴こえは良いのかもしれない。
でもそれ以上に深い闇を抱える俺たちを、ニノは敢えて世間に晒そうとしたのだ。