第3章 車の中でかくれてキスをしよう
そのまましばらく揺蕩っていた。
動いていないから、身体が冷えてきてしまって。
立ちあがってニノに声を掛けたけど動かなくて。
「オイ、ニノ」
ニノは目を閉じたまま浮いてて動かない。
「冷えるから…帰ろ?」
突然ニノが俺の腕を掴んで水の中に引っ張りこんだ。
口の中に水が入ってくる。
もがいて腕を離そうとするけど、ニノは案外力が強くて。
すると突然今度は引っ張りあげられて…
「なっ…なにすんだよっ…」
咽ながら言うと、ニノは突然笑い出した。
「てめえ…ふざけんのも…」
最後まで言えなかった。
ニノが笑いながら、泣いていたから。
その時の俺は、どうすることもできなくて。
ただ笑いながら泣いてるニノの肩を抱いて、泣き止むのを待ってるしかできなくて…
しばらく経って、ニノの涙が止まった頃、俺はニノの腕を引いてプールを出た。
持ってきたバスタオルで身体を拭いて着替えたけど、まだ身体は冷たくて。
ニノはもうその頃には抜け殻みたいになってて。
俺の部屋に連れ帰って、一緒に風呂に入った。
このまま部屋に一人で帰っても、きっとニノは風呂に入らないだろうと思ったから。
冷えたままのニノをとても一人にはできないと思った。