第2章 翼をもがれた竜-episode0-
「組長…愛しています…」
そっと身体を抱きしめると、組長は泣きながら俺に抱きついてきた。
「翔…もうヤクザ辞めたいよぉ…」
「もうちょっとですから。ね?待ってください…」
「ずっと翔と静かに暮らしたいだけなのに…」
「俺がなんとかしますから…ね」
極東翼竜会の若手ホープの大野智は、ガチホモのネコだ。
そして、親から引き継いだこの大野組を畳もうとしている。
理由は、叔父貴達が怖いから。
…じゃなくて、恋人である俺と静かに暮らしたいから。
元々が向いてないんだ。この人には…
絵を描くことが好きで、造形をしているのが好きで…
俺はヤクザから足を洗ったら、この人を海辺の小さな家に閉じ込めて、存分に芸術を楽しんでもらおうと思っている。
「組長…」
「智って呼んでよ…」
「さ、とし…」
「やっぱいい」
呼べと言われても、組長になる前はボン、組長になってからは組長とずっと呼んできた。
急に名前でなんか呼べるわけもない。
俺は頭が硬いんだ。
「今度はちゃんと名前呼んでよ?若頭」
「はい…すいません。組長」
ふふっと組長は笑うと、また俺に抱きついてきた。
「もうこのまま、翔と何処かへ行きたい…」
「ダメですよ…ちゃんと始末しないと…」