第6章 第五章 タイムリミット&ストップタイム
「ずっと言おうと思ってたんだけど、この世界は綺麗だね」
彼岸花は空を見ながら言った。
「え………?」
困惑する様な一期の声を無視して続ける。
「きっと、これが一期一振さんの望む幸せな世界なんだろうね」
こんなに綺麗な世界を持っているなんて、きっと素敵な事なんだろう。
彼岸花はそう言って、笑った。
そうすると、彼岸花の手を掴む手があった。
「ん?」
横を見ると前田………布があるので、恐らく前田の姿。
前田は彼岸花と手を繋いだ、というより彼岸花の手を観察している。
正確にはその掌を。
彼岸花はそれで察した。
「気にしなくていいよ。私がやりたくてやったことだから。……………ドMという意味ではない。」
彼岸花は空気を和ませる意味も込めて、冗談混じりにそう言った。
「………はい。あの、ありがとうございました」
彼岸花の悪ふざけなど意にも介さず、前田は彼岸花の目を見て微笑んだ。
彼岸花は少しだけ、救われたような気分だった。
世界が徐々に元に戻っていく。
「本当に良かったの?」………なんて、卑怯な質問を飲み込んで、彼岸花は空を見た。
元の世界はまだ夜。
短い時間の中で、変わったものはどれくらいあるだろうか。言いきれないな。
ふと視線を感じて横を見る。
薬研と目があった。
彼は口パクで言った。
『たすけてくれてありがとう』
一兄を、と言わなかったのは、彼も何処か救われる所があったからだろうか。
それならば、堪らなく嬉しい。
まだ二人、はっきりと言葉を交わすことは出来ないけれど、少しずつ変わればいい。
帰ったら、誰か待ってくれているだろうか。
それなら、嬉しい。
この後、今回の彼岸花の動きに心を動かされ、話を聞いてくれる者が多数現れる事を、彼岸花はまだ知らない。
そして、彼等と第一次和睦を遂げることも。
もし、明日………誰かの事を否定するのなら
彼岸花自身もまた、自分の心を見つめ直そう。
何もかもが正しいかどうかなんて、誰にも解らないから